STADの検査特性と科学的根拠

STAD(Screening Test for Aphasia and Dysarthria)は、脳損傷後のコミュニケーション機能を短時間で確認し、失語症や構音障害の可能性を把握するために開発されたスクリーニング検査です。

言語検査、構音検査、非言語検査の3領域から構成され、患者さんの言語機能、発話機能、およびコミュニケーションに関連する非言語性機能を多面的に確認します。

STADは、障害の診断を確定するための検査ではありません。初期評価によって障害の可能性や特徴を把握し、必要な詳細検査やリハビリテーションへつなげることを目的としています。
本ページでは、STADの基本仕様、標準化研究、信頼性、妥当性、スクリーニング精度および使用上の注意を示します。

基本情報

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項目内容
正式名称Screening Test for Aphasia and Dysarthria
略称STAD
検査目的脳損傷後のコミュニケーション機能の初期把握
主な対象脳卒中などの脳損傷後に、失語症または構音障害が疑われる方
検査構成言語検査・構音検査・非言語検査
項目数29項目
所要時間平均9分48秒
検査用紙紙A4判1枚
主な実施者言語聴覚士など、脳損傷後のコミュニケーション障害の評価に携わる医療従事者
検査の位置づけ詳細検査を実施する前のスクリーニングおよび初期評価

所要時間は患者さんの重症度、覚醒状態、注意機能、運動機能、聴覚・視覚機能などによって異なる場合があります。

言語検査

言葉の理解や表出など、失語症に関連する言語機能を確認します。
検査得点だけでなく、患者さんの反応、誤り方、反応までの時間、自己修正の有無なども観察し、追加すべき詳細評価を検討します。

構音検査

発声、構音、発話速度、発話のリズムなど、構音障害に関連する発話機能を確認します。
発話の明瞭度だけでなく、声質、構音の正確性、発話速度やリズムの変化を含めて評価します。

非言語検査

見当識や動作の模倣など、検査遂行やコミュニケーションに関連する非言語性機能を確認します。
非言語検査は、高次脳機能障害全般を詳細に評価するものではありません。反応が不良な場合には、注意、認知、行為、視空間認知などに関する追加評価の必要性を検討します。

標準化研究

日本語版STADでは、健常成人222名のデータを収集し、得点分布や年齢などの影響を検討したうえで、評価基準を設定しています。
標準化データは、患者さんの成績を解釈する際の参考となります。ただし、得点は年齢、教育歴、感覚機能、運動機能、覚醒状態、疲労、検査環境などの影響を受ける可能性があります。
そのため、基準値との比較だけでなく、患者さんの病前の状態や検査場面での行動を含めて総合的に解釈する必要があります。

STADの臨床的な有用性と検査特性を検討するため、全国20施設による多施設共同前向き研究を実施しました。
本研究では、脳損傷例314名を対象としてSTADを実施し、失語症、構音障害および非言語性機能に関する詳細評価や臨床所見との関連を検討しました。
そのうち212名には、Western Aphasia Battery(WAB)または構音障害に関する詳細評価が実施され、STADの各領域との関連が分析されました。

研究概要

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項目内容
研究デザイン多施設共同前向き研究
参加施設全国20施設
STAD実施例脳損傷例314名
詳細検査実施例212名
主な検討内容得点分布、信頼性、基準関連妥当性、スクリーニング精度
主な外的基準WAB、AMSD(標準ディサースリア検査) 、臨床所見

信頼性

STADの各領域について、内的整合性の指標であるCronbachのα係数を検討しています。

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領域Cronbach’s α
言語検査0.90
構音検査0.78
非言語検査0.68

言語検査および構音検査では、一定の内的整合性が認められました。
非言語検査は、見当識や動作の模倣など、性質の異なる複数の機能を少数の項目で確認する構成です。そのため、総得点のみで判断せず、各項目における反応の特徴を含めて解釈する必要があります。

STADの各領域と、対応する詳細評価との関連を検討しました。

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STADの領域対応する評価指標相関係数
言語検査WAB Aphasia Quotientr = 0.89
構音検査AMSDr = 0.70
非言語検査WAB非言語機能r = 0.79

言語検査はWABの失語指数と強い関連を示しました。
構音検査および非言語検査についても、対応する詳細評価との中等度から強い関連が認められています。
これらの結果は、STADの各領域が、それぞれ対応するコミュニケーション機能を反映していることを支持する所見です。

スクリーニング精度

多施設共同研究では、STADの各領域について、障害の可能性を判別するためのカットオフ値を検討しました。
領域別の分析では、以下のスクリーニング精度が示されています。

  • 感度:82~92%
  • 特異度:77~78%

感度は、対象となる障害がある患者さんを、検査によって適切に検出できる割合です。
特異度は、対象となる障害がない患者さんを、障害なしと適切に判定できる割合です。

STADは、障害が疑われる患者さんを早期に抽出し、詳細評価につなげるスクリーニング検査として、感度と特異度の均衡を考慮して評価基準が設定されています。
各領域のカットオフ値および具体的な判定方法は、検査マニュアルをご参照ください。

STADの結果は、総得点だけでなく、言語検査、構音検査、非言語検査の領域別得点と、各項目における反応の特徴を含めて解釈します。

カットオフ値を下回った場合には、対応する機能に障害が存在する可能性が示唆されます。ただし、カットオフ値を下回ったことだけで、失語症や構音障害の診断が確定するわけではありません。
また、カットオフ値を上回っていても、その後に行う神経心理検査や行動所見から、軽度の障害が明らかになる場合もあります。

検査結果は、以下の情報と併せて総合的に判断します。

  • 発症や受傷からの経過
  • 神経学的所見
  • 脳画像所見
  • 日常会話や病棟生活における行動観察
  • 患者さんや家族から得られた情報
  • 標準化された詳細検査の結果
  • 覚醒、注意、疲労、意欲などの検査条件

STADだけではできないこと

STADはスクリーニング検査であり、以下を単独で行うものではありません。

  • 失語症または構音障害の診断を確定する
  • 失語症のタイプや重症度を詳細に分類する
  • 構音障害の神経学的タイプを確定する
  • 高次脳機能障害全般を網羅的に評価する
  • リハビリテーションの内容や頻度を自動的に決定する
  • 患者さんの日常生活上のコミュニケーション能力を完全に評価する

STADで障害の可能性が認められた場合には、目的に応じた詳細検査や行動観察を追加してください。

検査条件の影響

検査結果は、意識レベル、注意機能、疲労、疼痛、難聴、視力障害、麻痺、失行、情動状態、薬剤の影響などを受ける可能性があります。
得点が低い場合には、対象となるコミュニケーション障害以外の要因が影響していないかを確認してください。

軽度例の評価

軽度の失語症や構音障害では、短時間のスクリーニング検査で問題が明確にならない場合があります。
本人や家族からコミュニケーション上の訴えがある場合や、会話観察で問題が疑われる場合には、STADの得点にかかわらず詳細評価を検討してください。

経時的変化の評価

急性期には、覚醒状態や全身状態の改善に伴い、検査成績が変化することがあります。
一度の検査結果のみで判断せず、必要に応じて再評価を行い、経時的な変化を確認してください。

総合的な臨床判断

STADは、言語聴覚士の臨床判断を代替するものではありません。
得点、誤反応、行動観察、医学的情報および詳細検査を統合し、患者さん一人ひとりの状態を総合的に理解するために使用してください。

主な関連論文

Araki K, Hirano Y, Kozono M, Fujitani J, Shimizu E.

The Screening Test for Aphasia and Dysarthria (STAD) for Patients with Neurological Communicative Disorders: A Large-Scale, Multicenter Validation Study in Japan.

Folia Phoniatrica et Logopaedica.
2022;74(3):195–208.
doi:10.1159/000519381

STADに関するその他の論文、学会発表および研究成果については、開発者プロフィールの研究業績をご覧ください。